2011年3月22日火曜日

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中国、トリウム溶融塩炉と進行波炉開発に照準

  世界最大の原子力発電国の米国、その米国を15年後には追い抜くことが確実の中国。2つの国で、原子力の持つ新たな可能性に照準を定めたユニークな原子炉の開発が動き出した。
 
  中国の最高レベルの科学技術学術機関であると同時に自然科学・ハイテク総合研究センターである中国科学院はこのほど、トリウム溶融塩炉の開発を正式にスタートした。トリウム溶融塩炉は、核燃料物質と冷却材が溶融塩の形で一体になったトリウムサイクルを用いた熱中性子炉で、増殖を行う原子炉だ。

  溶融塩炉は、発電所内で核分裂生成物を連続して除去する再処理方式を採用することができ、核燃料サイクル全体に投入される核燃料の総量を低下させることができるといった特徴を持つ。米国のオークリッジ国立研究所で1960年代に研究が進められたが、材料や部品、プラントの維持、廃棄物管理等で技術的に困難な問題があったため計画は中止された。
 
  中国科学院は1月25日、2011年の活動会議にあわせて開いた「創新2020」の記者会見で、戦略的先導科学技術特別プロジェクトの一環としてトリウム溶融塩炉原子力システム(Thorium Molten Salt Reactor::TMSR)の研究を開始することを明らかにした。
 
  戦略的先導科学技術特別プロジェクトは、中国科学院が2050年までを視野に入れてとりまとめた科学技術発展ロードマップに基づいて、長期的な視点から国として発展させる必要がある重要な科学技術問題にねらいをつけたものである。国務院常務会議で2010年3月、「創新2020」計画の審議・承認が行われた際に同プロジェクトの設立が認められている。
  
  中国科学院は、2年間に及ぶ根回しや調査研究、討論を経て、2010年9月25日の外部の専門家による検討・評議を踏まえ、同12月に予算の審査が通ったことから2011年1月11日に実施を正式に承認した。
 
  中国科学院はTMSRの開発を4段階で進めるとしている。まず2015年までは問題発見期間として、2MWの実験炉を建設しゼロ出力臨界を達成した後、2年後に2MWを達成する。次の5年間では、モジュール化炉の研究開発を開始するとともに、10MWの実験炉の臨界を達成する。
 
  2020年~30年は実証応用段階と位置付けられており、電気出力100MWの実証炉を建設し臨界を達成する。そして2040年までに商業利用段階に持っていくという計画だ。TMSRの研究開発は、中国科学院の上海応用物理研究所が担当する。

  中国では、もう1つユニークな原子炉の開発がスタートしている。国家能源報が昨年9月17日に報じたところによると、国家エネルギー(能源)局電力司核電処(部)は「進行波炉辦公室」を設立し進行波炉技術の研究開発について関係者の意見をまとめたうえで、原子力企業の専門家を選任し準備作業をスタートした。
 
  進行波炉(Traveling Wave Reactor)は、1958年に初めて提唱された増殖炉の一種で、理論的には燃料を交換しないで50~100年間の運転が可能という。また、軽水炉から取りだされた使用済み燃料や劣化ウラン、トリウム等を燃料として利用することができる。

  福建省のアモイ大学エネルギー研究院の李寧院長は2009年10月30日、中国南方電網と中国国電集団、能源雑誌社が共催したフォーラムの場で、進行波炉の開発の意義について強調した。マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏が出資するテラパワー社も進行波炉の開発構想を明らかにしている。



“平和の灯”を点すトリウム原発開発

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溶融塩炉では、トリウム232(天然・非核分裂性)+中性子→トリウム233→ウラン233(核燃料)となります。

トリウムをウランに変換する中性子源としてプルトニウムを使います。ウラン233は、強力な電磁波であるガンマ(γ)線を同伴するため核兵器への転用が困難です。

そして、軽水炉で用いられる制御しづらい金属製の燃料集合体(出力変動に弱い燃料棒の束で、1年程度の間隔で交換を強いられる)格納容器やシュラウド(炉心部を構成する燃料集合体・制御棒等を内部に収納する円筒状の構造物)を冷却するための海水が不要なグラファイト(温度変化に強い黒鉛)部分で核分裂反応を冷やさずに保つ仕組みです。
 
日本では現在、再処理工場(青森県六ヶ所村)の本格操業が待たれるなか、発電後にウランから発生される残渣であるプルトニウムの扱いに腐心しており、苦肉の策としてプルサーマル発電や高速増殖炉「もんじゅ」開発を行っています。余り馴染みのないトリウムについてもウランと共に「原子力基本法」で既に定義されており、トリウム原発の実用化に支障は全くありません。

原子力を地球温暖化対策の切り札とする先進国のみならず経済成長でエネルギー需要が伸びている新興・途上国において原発導入の動きが活発化している「原子力ルネサンス」である一方、国内では脱原発や原発反対の不毛な「原発漂流」議論が続いている原子力政策を打開すべく、今こそ地球温暖化防止やエネルギー安定供給、そして核軍縮・核不拡散という崇高な理念に基づく「核なき世界」の実現に向け、軽水炉に固執・拘泥せず高速増殖炉の呪縛に囚われることなく、“平和の灯”を点すトリウム原発開発に唯一の被爆国である日本がリーダーシップを発揮して取り組むべきであると考えます。

 
世界の核兵器の9割以上を占める核超大国である米国とロシアとの間で2011年2月5日、新しい核軍縮・核不拡散の枠組みとなる「第2次戦略核兵器削減条約(STARTⅡ)」が発効しました。また、核兵器の原料となるプルトニウム等の生産に歯止めを掛けるための「
兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約」を推進する動きも加速しています。近い将来、エネルギー戦略の要諦となるトリウム原発を梃子に、人類が核兵器のない恒久的な平和を享受しながら地球環境を守り、子々孫々に禍根を残さない持続可能な社会が構築されることを期待しています。


A-52.(04.11.09)  
六ヶ所村再処理工場の存廃とトリウム熔融塩炉


2.古川博士、朝日投稿・没

  エネルギー問題が世界的に混乱しているときに、何故日本の原子力委員会がこのような方針を決定したのか、詳しい説明がなく、単に経済性の問題に力点を置いているのは理解しにくい。たまたまそういうときに、04年10月末古川先生から、朝日「私の視点」に投稿する原稿(案)をお送りいただいた。丁度北朝鮮やイランなどの核開発について世界の世論が話題となっており、かつ六ヶ所村処理施設の存廃が日本国内のエネルギー政策を左右する大問題となっている時宜でもあり、大変タイムリーなテーマであると声援を送りました。お許しを得て、ここにその原稿を掲載させ頂く。

朝日新聞 「私の視点」 投稿原稿: (没)
「今後の世界百年のための原子力政策を!」         
トリウム熔融塩国際フォーラム 古川 和男


 今、日本は経済再建の大事な時期にある。その骨格となるのは明らかに「エネルギー環境産業」であろう。原子力委員会が政策再検討を行っており、再処理工場は稼動をめざす方針と報道されている。結論がどうであれ、これと「もんじゅ」再稼動問題の本質は、信頼できる中核技術者の育成確保保持という現実的緊急課題にある。主題とすべきは百年の大計である。今世紀世界は原子力に頼る他ないからであり、ここで異論もあろうが、次の4点を考えてみて頂きたい。

 1).再生可能な自然エネルギー技術の現実: 風力、太陽光発電などの実用の試みがかなり進み社会的な評価可能となったが、まだ不安定な寄生的技術で、電力の分担は精々1割までであろう。良いエネルギー源であるから、二-三〇年以内に真の新基幹エネルギー技術へと改革すべきだが、成功しても「世界一次エネルギーの二-三〇%を占める基幹産業」までに育つにはどうしても七-八〇年はかかり、世紀末になる。

 2).今世紀中後半に間に合うのは原子力のみ: 石炭、石油などの化石エネルギー依存を止めねば地球環境は破壊されてしまう。それに替わることができて、地球環境にやさしいのは原子力のみであろう。核融合は未だ研究段階に過ぎず間に合わないので、核分裂原子力が本格的に世界に定着発展するよう努力する他はない。

 3).要はプルトニウム(Pu)問題の解決: イラク・イラン・北朝鮮はいうまでもなく、韓国・台湾を揺るがせている核兵器問題の核心はPu問題である。核兵器を持たぬ核拡散防止条約国でPu使用を許され進めようとしているのは日本のみであるが、全世界に向け核兵器廃絶を断固先導しつつ生きてゆくには、技術に裏付けされた「核兵器への転用が難しい原子炉方式の採用」がどうしても必要となる。

 4).プルトニウム(Pu)問題解決策はある: 具体的には、核弾頭のみならず使用済み核燃料から回収されるPuをトリウムに混ぜたトリウム熔融塩炉により燃やすことによって、Puを消滅させることが出来、現在の原発体制から円滑に軍事利用に適さないトリウム原発時代に移行できる。このPuはフッ化物熔融塩にすれば良いから、処理法は単純で開発済みであり「再処理問題」の解決にもなる。それは十年前本欄で既に紹介し、『「原発」革命』(文春新書)でもかなり詳しく解説してある。

 この液体核燃料炉は決定的に優れた諸性能を備えている。核拡散・核テロ対策に優れているのみでなく、核暴走・爆発の恐れなく苛酷事故はありえず、単純な核燃料増殖サイクル(低コスト化学処理、核廃棄物消滅に極めて有利)が実現でき、固体核燃料の製作取扱い不要であるのみか炉構造運転が単純になり、大きく経済性が向上する。
 
 日米露共同開発を計画しているが、諸国の同志も協力しつつあり米露政府は認知している。OECDとIAEAが共同で推奨し、また最近現状報告書を提出した。国内でも、例えば自民党「循環型社会研究グループ」が、長期戦略項目に我々の構想を採用した。この基本構想は核冷戦に圧殺され、若手専門家はトリウムさえ知らないが、わが国として、トリウムの極めて優れた特性を十分認識し、国際的に核拡散抵抗性の高い原子力産業の育成に主導的役割を果たすべきであろう。                       (以上)

 しかしその後、この原稿が残念にも没となり、その没になった経緯を色々調べてみますと、私の考えでは概ね次のように推測される。

 ①.原子力政策を変えるのは大変なことである(ウラン関投資連資産の未償却やウラン技術者の処置)
 ②.トリウムのは極めて専門的な問題なので、原子力界内部での認知が必要。
 ③.原子力の将来を見て、トリウム路線をとるというのは現時点では難しい選択。
 ④.国内外の有力な専門家たちも言及するようになっているのでもう少し時間を掛けて議論が必要。

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